病院を営業先とするBtoB企業にとって、「病院のリストを増やす」こと自体はそれほど難しくありません。都道府県や厚生局が公表している情報、法人名簿を扱う業者など、入手経路は複数あります。しかし、実際に営業現場でよく聞かれるのは「件数は増えたのに、架電やDMの反応が思ったより伸びない」という声です。本記事では、病院向けの営業リストを作成・活用する際に、無料で使える公的データで何が分かり、何が分からないのか、そしてリストをどう絞り込めば成果につながりやすいのかを整理します。
病院の名称・住所・電話番号だけが並んだ名簿は、対象母数を増やすには有効です。全国の病院数は令和8年4月末時点で7,951施設とされており※1、母数自体はそれほど多くありません。だからこそ、手当たり次第にアプローチするよりも、自社の商材に関心を持ちやすい病院を事前に絞り込んでから架電・DMを行う方が、同じ工数でも成約率は変わってきます。
病院は診療科目も病床規模も、診療報酬上の施設基準の取得状況も施設ごとに大きく異なります。名称・住所・電話番号だけのリストでは、どの病院が自社の商材に合うかを事前に判断できないため、架電してから初めてミスマッチが分かる、という非効率が生まれやすくなります。次章からは、無料で使える公的データで実際に何が分かるのかを見ていきます。
病院は医療法第6条の3に基づき、診療科目や病床数などの「医療機能情報」を都道府県へ報告する義務があります。この制度は平成18年の第五次医療法改正で導入された「医療機能情報提供制度」で、令和6年4月からは全国統一の検索システム「医療情報ネット(愛称:ナビイ)」が運用されています※2。
ナビイで確認できる情報は、大きく3つに分類されます※3。
営業リストの絞り込みという観点では、診療科目や保有設備、対応可能な疾患・治療内容は、自社の商材と関連性が高い病院を見つける手がかりになります。一方で、ナビイは個々の病院の自主報告をもとにしており、全国統一後まだ期間が浅いこともあって、対象件数や報告の更新頻度、CRMに取り込みやすい形式で一括ダウンロードできるかどうかは、本記事執筆時点で厚生労働省の公表情報からは確認できません。病院単位で検索・閲覧する分には使えますが、大量の病院を一括でリスト化する用途には、現時点では向き不向きがあると考えておく必要があります。
ナビイのほかにも、都道府県や政令指定都市が独自に医療機関名簿を公表している例があります。東京都・長野県・栃木県・青森県・横浜市などでは、管轄する病院・診療所の名簿がWebサイト上で確認できます※4。ただし、すべての都道府県が同一の形式・項目で公表しているわけではなく、自治体によって掲載項目の粒度や更新頻度に差があります。利用する際は、対象エリアの自治体サイトで最新の公表状況を個別に確認する必要があります。
もうひとつの切り口が、診療報酬の施設基準届出データです。病院が特定の加算(地域包括ケア病棟入院料、在宅療養支援病院の届出など)を取得しているかどうかは、地方厚生局が公表する届出一覧から確認できます。施設基準の届出状況は、病院がどの診療領域に力を入れているかを推測する材料になります。ただし、地方厚生局ごとにデータの形式が異なるなど、実務で扱う際には相応の前処理が必要になる点に注意が必要です。
ここまで見てきた公的データを踏まえると、病院向け営業リストを絞り込む基準は、大きく次の5つに整理できます。
これらの基準は、どれか1つだけで十分というものではありません。自社の商材が「どの基準と相性が良いか」を先に言語化してから、複数の基準を掛け合わせてリストを絞り込むことが、無駄な架電・郵送コストを減らす近道になります。より具体的に、病床機能報告データの区分の内容を確認したい場合は以下の記事も参考にしてください。
公的データは無料で使える反面、前述の通り「一括でダウンロードして使いやすい形式になっていない」「更新頻度や項目の粒度が自治体・局によってばらつく」「病院ごとの導入設備の更新時期や投資余力までは分からない」といった限界があります。ある程度の件数を自社でリスト化し、継続的にメンテナンスする体制まで考えると、自前での収集・名寄せ・更新にかかる工数は無視できません。
こうした限界を踏まえ、公的データをもとにクレンジング・名寄せを済ませた状態で定期的に提供する商用の病院データベースを利用する企業もあります。価格や収録件数は提供会社によって異なり、個別見積りとしているケースが一般的です。自社の営業体制で公的データの収集・更新まで内製するか、外部の病院データベースを活用するかは、架電・郵送にかけられる工数と、求める更新頻度・粒度のバランスで判断する形になります。
病院向けの営業先は、医薬品メーカー、医療機器メーカー、人材紹介・派遣会社、ITベンダー、調査・コンサルティング企業など業種によって重視するポイントが異なります※5。たとえば医療機器メーカーであれば、病床機能報告データの「医療機器の台数」項目や施設基準の届出状況から、導入済み機器の推測まで踏み込んだ絞り込みが有効です。
なお、訪問看護ステーションは医療法上の病院・診療所には該当せず、本記事で紹介した医療情報ネット(ナビイ)等の対象にも含まれません。訪問看護ステーション向けに営業リストを検討する場合は、別の制度・データに基づく記事を参考にしてください。
病院向けの営業リストは、まず医療情報ネット(ナビイ)や都道府県の医療機関名簿、施設基準届出データといった無料の公的データで何が分かるかを把握し、そのうえで所在地・病床機能・診療科目・施設基準・法人種別という5つの基準で自社の商材に合う病院を絞り込むことが、架電やDMの反応率を高める近道です。公的データの収集・更新に割ける工数が限られる場合は、クレンジング済みの商用データベースを比較検討することも選択肢になります。
※1 厚生労働省「医療施設動態調査(令和8年4月末概数の再集計)」
※2 厚生労働省「医療機能情報提供制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/teikyouseido/index.html
※3 厚生労働省「医療機能情報提供制度の概要」https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000644619.pdf
※4 東京都・長野県・栃木県・青森県・横浜市 各公式サイトの医療機関名簿公表ページ(2026年10月時点)
※5 本サイト内「病院データベースを活用している業界」記事を参照